手水と手水

僕の名前は大概読み間違えられる。
両親は無難な漢字を選ぶも、神主の一声で変わってしまったという。
別に不満があるわけでもなく、寧ろ気に入っているくらいだ。
読み間違えをやんわりと正して始まる会話もあれば、すんなり読めた理由を問うこともできる。
一つ難点を挙げるとすれば、外国人にとっては面倒な発音であることくらいだろうか。
それにしたって、熱心に発音を練習してくれる人がいたり、面倒だからニックネームを考えてやるよという人がいたり、人それぞれで面白い。
それもこれも、流行りの名前には到底太刀打ち出来ないものだろうが。

ひとり、初詣をしながらそんなことを考えていた。

「神社」「手水」「神酒」「巫女」などなど、読み難い漢字が多い。
以前、「手水」を「てみず」と読んだ僕に「ちょうずだよ恥ずかしいなあ」と窘める人がいた。
どちらでも良いんだと、その時は自信を持って言えなかった。部屋に戻り、辞書を開いて自分にも相手にもがっかりしたことを覚えている。

「お神酒をどうぞ。おめでとうございます」と声をかけられ、「神酒」という漢字が浮かぶまで数秒を要した。
何か無作法な振る舞いをしなかっただろうかと思い引き返すうち、参道のど真ん中を歩いていることに気が付いた。