十八番
「君ねえ、コミュニケーション能力だよ」
「はい」
「そこだよ。そこで何か言うんだよ。何か面白い話ないの?」
「そうですねえ」
「うん。コミュニケーション能力。頑張ってよ」
「はい」
「だーかーらー」
ああ、これじゃない。諦めが肝心か、見極めが大事か。
面白い話ってなんだよと思ったが、まあ「鉄板のネタ」というのは必要なモノかも知れない。
子供の頃は、おっさんたちが何度も同じ話をするのを鬱陶しく思った。
「その話、もう何回も聞いてるから」
その言葉で何度も父と喧嘩になった。
しかし、その「十八番」が所謂「コミュニケーション」には有効なようだ。
新しい話題→いつもの→結論(オチ)
まあ、確かにね。いつものを挟むことで、自らの経験に引き寄せて話を理解しているわけだ。
リアリティがあるよな、恐らく。
そうかそうか。
いや、それで父の「十八番」を思い出したのでここに書こうと思って。
新卒で大手企業に入社した叔父、祖父母もそれは喜んだ(だろうな)。
70年代だか80年代だか知らないが、大手に入れば安泰の時代かな。
しかし、叔父は研修一日目で会社を辞めた。
自衛隊に体験入隊だったか、何だか忘れてしまった。
上裸、裸足でグラウンドを走らされたそうな。
スタートしてから半周、叔父は服と靴を回収しそのまま姿を消した。
「見極めの早さもひとつの才能だわな」と話が終わる。
まあ、本人の人柄を知っているから余計に面白いのだろうけど。
「お前もそんなマゾヒストにならずに、他の手を考えたらどうだ」
そうかもなと一瞬思えるあたり、こういう話は説得力を生むのかな。
明日も面接だ。